連載 コミュニケーション講座・2
コミュニケーションのむずかしさ(1)
杉 政孝
pp.73-76
発行日 1966年5月1日
Published Date 1966/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905631
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前回は,人と人との関係において,とくに世代や役割の違う人間の関係の調整において,コミュニケーションがいかに重要であるかを述べた。しかし,コミュニケーションの必要性がいくら痛感されても,それだけではコミュニケーションは充実しない。コミュニケーションの効果は,それをやろうとする意欲と善意だけではあがらないのである。もちろん,互いに理解し合おうとする意志と,人間同士なのだから話せばわかるはずだと信ずる善意がそもそもの出発点であり,それがなければどうにもならないことは事実であるが,他方では,コミュニケーションは技術の問題でもある。眼の前で病気に苦しむ家族を見て,なんとかして,癒してやりたいと気ばかり焦っても,医学の知識や技術のない素人にはどうすることもできないように,コミュニケーションを充分に行なおうとする気持だけはあっても,そのためのテクニックや限界を知らない者は,コミュニケーションをあきらめるか,あるいはそれに期待をかけすぎて,どんなに本質的な立場やものの考え方の違いがあっても話し合いさえすれば人は手をにぎり合えると安易な楽観をすることになりかねない。そこでコミュニケーションの技術を効果的につかうために,むしろそのむずかしさと限界をあらかじめ知っておきたい。
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