医学解説
医療に由来する心身の障害
日野 志郎
1
1東京逓信病院内科
pp.69-72
発行日 1966年5月1日
Published Date 1966/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905630
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はじめに
医師は病気をなおすために努力しているはずなのに,医師によって病気が作られることがあるという逆説的な考えが生れてきたのはいまから約30年まえのことであって,イギリスのArthur Hurstという先生がiatrogenic disordersという言葉でこれを表現した。Iatrosというギリシャ語は医師を意味し,genicというのは“……のもとになる”とか“……がもとになった”とかを意味する。Disorderとは“調子が狂った状態”ぐらいに解釈してよいだろう。病気あるいは疾患と同じようなものではあるが,もう少し漠然とした意味のように受けとれる。わたくしは一応“心身の障害”と訳しておくことにする。
ひねくって考えれば“医者を作るもとになった病気”というものもありうるけれども,iatrogenic disordersというのは“医者がもとになって起こった心身の障害”ということになる。Hurstと同じころ,オーストリアのKreckeは“病気をひき起こすものとしての医師”という論文を書いている。その思想はまったく同様であるが,Hurstがおもに心の障害を扱ったのに対し,Kreckeは身の障害をも含めている。
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