教育のひろば
教える人
清水 慶子
pp.1
発行日 1965年1月1日
Published Date 1965/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905395
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私の学生時代を思いかえすと,嫌いな先生というのが何人かあった。どの人も,自分の専門である学問や技術を教えることに熱情が欠けていて,授業中にムダ話が多い。しかもそのムダ話の最後は必ずお説教的なものになって終わるのである。その先生の心の中には,いつでも,「学生のためになるであろう」という善意がはたらいていたのであろうが,学生側にとっては,古い手垢のついた処生訓には反発を感じてしまうだけ。まして貴重な授業時間がつぶされることには腹が立った。
それに反して,当時の私が好きだった先生,これまた何人かあったが,どの人にも共通なことは,授業への大きな熱意を見せたことだった。その中の一人,私たち学生が,「ミセス・ツメコミ」というニックネームをつけた先生は,全く授業中は授業だけをぎゅうぎゅう詰め込んだ。私たちは「ミセス・ツメコミ」のすごいファイトに少し悲鳴をあげながらも,ふしぎなことにはその先生もその学科も嫌いにならなかった。「ミセス・ツメコミ」の授業は,今の言葉で言えばドライであった。彼女のべたべたしない態度とゆたかな学力とスピーディな授業の進行ぶりは,若い学生たちに快かった。後で自分のあだ名を知ったこの先生は少しも驚かずにこう言った。「そもそも教授とはツメコムことなのですよ」
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