教育のひろば
大切にしなければならないコトバ
小口 忠彦
1
1お茶の水女子大学
pp.1
発行日 1964年10月1日
Published Date 1964/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905357
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世のなかには,深いチエをふくんだ「りっぱなコトバ」がたくさんある。古今東西にまたがるこうしたコトバを,一々数えたら,べらぼうな数になるにちがいない。とても,数えきれまい。
よくも,まあ,こんなにたくさんりっぱなコトバを,人間はつくり出したものだ,と感心もし,感激にも似た気分にひたってしまう。が,同時に,りっぱなコトバだとはしても,どうして,こんなにたくさんつくり出すようになったのだろうか,とふしぎに思わないではおれない。「愛というコトバが交わされている二人の間には,愛が交わされてはいない」というコトバも,そうした類のりっぱなコトバの一つに数えることができるだろうが,このコトバの内容をひきのばせば,りっぱなコトバが数えきれないくらいたくさんあるようでは,人間は,りっぱになっていないのかもしれない。人間が,りっぱになればなるほど,りっぱなコトバなど,影をひそめてしまうにちがいないからのことで,そういう意味においては,りっぱなコトバなどなくてすむ社会をつくる努力が必要なのである。りっぱなコトバが繁盛するようでは,りっぱな「人間」のほうは,おるすになっている。
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