連載 Festina lente
コトバの問題
佐藤 裕史
1
1慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター
pp.2191
発行日 2011年12月10日
Published Date 2011/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402105710
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論述式に代わって五者択一方式が医学部の試験の大半を占めるようになって結構経つ.そもそも国家試験がマークシート形式なので臨床,ついで基礎医学の試験も右に倣えで現状に至ったのだろう.時に私は敢えて論述試験を学生に課すが,いくつかの学校で一貫する傾向がある.「○○を論ぜよ」と問うているのに箇条書きで答える.字の汚いのは大目に見るとしても誤字も著しく,毎年数人の学生が患者を“看者”と書く.「○○は○○で,○○なので,○○だけど」といった小学生並みの文章も稀でない.
卒業した途端,夜中の救急外来で動揺する患者や家族に病状を説明し,入院なり帰宅なりを納得させる役回りになる.検査値や画像は参照資料に過ぎず,見立てと手当ての方針はあくまで医者が患者に話すほかない.話がそれたら軌道修正し,曰く言い難いところは忖度して代弁する.以上すべてを数分でやらねばならない.五者択一なら正解できた筈の診断・治療の選択肢,副作用,予後を,相手の理解に応じて手短に説明するのは至難の業だが,どうすべきか誰も教えてくれないから,自分たちで卒業までに何とかすること――そういうと学生は困惑して押し黙る.簡潔で正確でわかりやすい学術用日本語のお手本として,朝永振一郎,加藤周一,大野晋,木下是雄を薦めているが,どの程度読まれていることか.
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