巻頭言
コトバの問題
土居 健郎
1
1聖路加国際病院精神科
pp.568-569
発行日 1999年6月15日
Published Date 1999/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405904779
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最近聞いた話だが,医学部教授の選考に当って,候補者を評価する際,次のような方法が取られるという。それは候補者がこれまで書いた論文がどのような雑誌に載ったかということをもって判断の目安とすることだが,この場合その雑誌が権威あるものであれば,それだけ多くの人に読まれ,引用される機会が多くなるので,評価点が高くなる。これをimpact factorと称し,発表される雑誌の序列によってそれぞれ何点ときめておき,各候補者の優劣は各自の業績の合計得点によって判定するというわけである。
私はこの話が本当かどうか知らない。いかにもありそうな話だから,多分本当だろう。このやり方がすべての大学で一様に行われているかどうかも私は知らない。仮にこの話が本当で,かなりの大学で現に行われている教授選考の方法であるとすると,これは昨今識者の間でしばしば話題となる大学受験の際の偏差値重視の事実とあまりにも類似してはいないか。もっとも教授候補者の間に優劣をつけねばならぬというのはわかる。また彼らの論文の質をimpact factorで測ろうというのもわからぬではない。しかし問題は個々の論文をそれが発表された雑誌の序列によって点数化することだ。というのはこの場合,国際的に評価の高い雑誌に発表された英語の論文だけが高得点を獲得することになるからである。聞くところによると,日本語の論文はほとんど業績の中に数えられないというのである。
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