連載 論より生活・5
ただ,過ぎに過ぎゆくものは
頼富 淳子
1
1(財)杉並区さんあい公社
pp.396-397
発行日 2000年5月25日
Published Date 2000/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663902262
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平日の昼下がり,バスに乗って出かけた.途中の停留所で,足元のおぼつかない4人組のおばあさんが,手を引きあい,お尻を押しあうようにして乗り込んできた.敬老会館からの帰りだろうか.やがて陣取った後部座席から語し声が聞こえてきた.「寒くなったねえ」「そうねえ」「今年みんな風邪ひかないねえ」「そうねえ,風邪ひかないわねえ」「いい塩梅だわねえ」「いい塩梅ねえ」「風邪,誰にもつかないねえ」
四角い箱の中の無味乾燥な空気が,ゆるやかに潤されていくような気がした.
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