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ニューヨークでの生活にも慣れ,英語も上達してきたか……と思いきや,日本語で全てを乗り切っている鋼メンタルの柳田です.
米国は言葉や文化も異なるが,病理標本作製方法にも違いがある.日本は滑走式ミクロトームが一般的だが,米国は回転式.日本では水槽に切片を浮かべてスライドガラスで切片をすくい,伸展器の上で切片を伸ばすが,米国ではいきなり湯槽に切片を浮かべて切片を伸ばす.最初は慣れない方法に戸惑ったが,数回やってみるとあることに気づく.米国の薄切工程は完璧に計算され尽くされていることに! 回転式での薄切に合わせたパラフィンの融点,湯槽の温度,切片厚,ガラスのコーティングなど.全てが理にかなっていて絶妙だ! それに気づいた時は感動のあまりミクロトームの前で震えた.感動で震える柳田にボスが言う……「大型切片を切って♥」.え?(クリオスタット以外の)回転式ミクロトーム初心者ですが? 違う意味で震え始める柳田.大型のパラフィンブロックは通常のブロックの4〜6倍ほどの大きさだ.「えぇ……まじか」と震えているとボスが「これを切って♥」と渡してきたのは,腫瘍で倍以上になった足の親指一本丸々.骨と爪が含まれておりますよ? これを切れと? 回転式で大型切片に初挑戦で? しかし,そんな感情を押し殺し,余裕な顔でこう言ったさ.「お任せください」 日本の検査技師の能力を見せつけてやるわ!という意地.とにかく慎重に1〜2μmの厚さで面出しを続けていく.この大きさの全面を出す……それは果てしない作業.遠くなりそうな意識を決して離さない柳田! 氷水で湿られたガーゼで表面を覆い硬組織を少し軟化させ……また1〜2μmの厚さで面を出していく.「ふぅ」 面が出たら,さぁ本番.刃を替え,深呼吸.「おし!」とハンドルを回転させる.すると美しい切片がリボン状に連なって切れていく! 「おし,天才!」と己を鼓舞しながら,大型切片を見事完成させたのだ!(涙)
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