連載 薬理学―見方をかえたら・7
生体内物質の新しい作用
堀 誠治
1
1東京慈恵会医科大学薬理学講座第1
pp.77
発行日 1999年1月25日
Published Date 1999/1/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663902008
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生体内で,以前より重要な役割を担っていることが知られている物質で,最近になり,実は隠れた役割を果たしているのではないかといわれているものがある.今回は,そのような物質の中から,2-3の例をあげてみたい.
我々は,生命を維持するために化学エネルギーを利用していることは周知のことである.とくに,アデノシン3リン酸(ATP)は,生体内のエネルギー貯蔵物質であり,代謝の中間体として種々の生理作用のエネルギー源となっている.そして,解糖系・TCAサイクルなど生体内のエネルギー産生系は,ATPを産生するために存在しているといっても過言ではないであろう.近年,そのATPが神経伝達物質として作用していることが明らかとなってきている.従来から担っているエネルギー担当を放棄したわけではないのだが,隠れていたお役目が表面に出てきたと考えれば簡単であろう.ATPを作用させることにより,輸精管,膀胱平滑筋,血管などの収縮を引き起こすといわれている.また,同じATPが,結腸紐などの平滑筋は弛緩させるという.さらに,このATPが,中枢神経系において,神経伝達物質として作用していることが示されている.また,痛み刺激の伝達にATPが関与しているのではないかとの報告もある.詳細なことは,現在研究が進みつつあり,今後の展開が期待されている.
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