連載 南島詩人一人舞台・10
揺れの文化
平田 大一
pp.808-809
発行日 1998年11月25日
Published Date 1998/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663901929
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小浜島に民放のテレビ番組が流れるようになったのは今から六・七年前のこと。だから僕の英雄とは“仮面ライダー”や“ウルトラマン”ではなく、むしろ“横笛の上手いお兄さん”だった。特に夏の祭りの旧盆の季節になると、伝統的な民俗衣装を身にまとい、ニムチャーと呼ばれる島の楽団の先頭を、肩で風切りながら笛を吹いて歩く後姿は、憧れのなかの憧れ、その姿に魅かれて僕も笛を吹きはじめたのであった。今から十八年前、十二歳の時のことだ。
当時、上手く吹けない僕に、笛を教えてくれた喜敬さん・通称インキおじーは「一番大事なことは、遠慮しないで、音が出るまで、上手くなるまで、吹きつづけることだ!」と力強く語りつづけてくれた。いま思えば、彼の指導は島哲学そのものであったに違いない。誰もが詩人で、誰もが芸人で、誰もが哲学者で音楽家──そんな島の人の生き方が、今の僕の生きる道に大きな意味を持って存在している。
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