連載 南島詩人一人舞台・5
微熱の日々
平田 大一
pp.336-337
発行日 1998年5月25日
Published Date 1998/5/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663901824
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僕は今、東京から帰る空の路の上でこの原稿を書いている。気温が約二〇度も違う南の僕のもとに「島の元気を伝えに来て欲しいんだ」と招待の声がかかり、シンポジウムに舞台公演と、実に忙しく語り唄いながら、疾風怒濤の如くに駆けぬけた二日間だった。友人に見送られ、飛行機にとび乗ったのが午前六時四五分。さすがの疲労感もピークに達し、シートに体を埋めてみたものの、興奮して寝つけない。理由(わけ)のわからない熱に浮かされ、まどろむ想いの淵で僕はふと、学生の頃のガムシャラだった時代を思い出していた。
一〇年前、大学生だった僕は、東京の片隅でやっぱり眠れない夜を過ごしていた。自分のやりたい事がわからない、何をしていいのかがわからない、胸の中のマグマだけがぐわらぐわら唸(うな)りをたて、夢のベクトルをどこに向けていいのかわからない苛立ちに、いつも眼光だけがギラギラと光っていた。
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