調査・研究
患者・家族の不安分析序説(3)―家計への不安
守屋 研二
1
1自治医科大学看護短期大学
pp.920-924
発行日 1996年11月25日
Published Date 1996/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663901486
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現実的解決を迫られる不安
「入院はけっして静かな思索の場ではない.募ってくる痛みに耐えたり,ちょっとした徴候や,医師や看護婦の言葉のはしばしに取り越し苦労をしたり,けっこう心を揺すぶられる現在の連続である」1).心筋梗塞を病んだ作家・三木卓のいう「けっこう心を揺すぶられる現在の連続」は,「入院生活は不安の連続」と言い換えられる.そうした患者や家族が抱く不安に「家計への不安」がある.
多くの人々にとって,家計の問題は他人には秘めておきたいプライバシーの最たるものの1つである.したがって,病気による出費の増加と収入の急減・途絶がもたらす家計への不安は,闘病記や看病記のなかではほとんど患者や家族の内的独白としてしか語られていない.そのことからすると,臨床現場でも看護職が患者や家族から直接にその不安を訴えられる機会は少ないだろうと想像される.と同時に,家計への不安は,患者や家族がそれを互いに語りあったり,看護職に話せば,心理的カタルシスが得られるような種類の不安ではなく,「現実的解決」が迫られる不安である.したがって,たとえ看護職がこの不安の聞き役を引き受けたにせよ,問題の本質的解決にはなりにくい.
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