やさしい目で きびしい目で・163
不安
勝呂 慶子
1
1医療法人社団巌会あさひ眼科医院
pp.1197
発行日 2013年7月15日
Published Date 2013/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410104834
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問診票の「黒い物が目の前に見える」という項目に印をつけた50歳代男性。診察室に招き入れ,挨拶をしてもにこりともせずに怒ったような表情で黙って座る。質問に対しては最小限の応答。発症は2日前,他院に行った様子はない。何があったのか,診療所のスタッフは院長とは違って言葉遣いは丁寧,応対も良いはずなのに。少々余計なことを考えながら,それでも淡々と手順に従って検査を進める。結果は後部硝子体膜剝離。病名を告げ,加齢に伴う変化であり,網膜裂孔がないので治療の必要はないことを説明する。「この黒い物は消えてなくなることはありません。けれども,徐々に気にならなくなります。人は注意していないと目の前にあるものですら気がつかないことがあります。この能力をうまく利用して,気にしない努力をしましょう。つまり,脳で脳をコントロールすることです。そうすると,さらに良いことに次に何か変化が出たときにも気がつきやすくなります。その時には今回のように早めに眼科を受診してください」肩の力が抜けた。患者さんの表情が徐々に緩む。ほーっと息をついて「安心しました。ありがとうございました」穏やかな表情に変わる。
母親が不安げな表情で現れる。小学校3年生の元気な女の子。目の間に緑や黒の光が見えると言っている。眼球内に異常なく視力も良好。母娘関係は良好,娘に屈託はない。MRI検査を迷いながら,もう少し様子を見ることにする。しばらくして今度は紫や緑の変な形の物に変わったと言う。本人は無邪気に一生懸命に説明をする。MRI検査を依頼したところ,交通性水頭症と診断される。
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