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はじめに
私は立命館大学(以下、本学)スポーツ健康科学部に所属し、大学生の学びと成長をテーマに研究・教育・社会貢献活動を行っています。教育活動では、専門科目のほかに、多様な学生が受講する教養教育科目も担当しています。そのなかの1つが今回紹介するピア・サポート論です。
ピア・サポート論は立命館科目に位置づけられ、学生同士の相互支援による学びのコミュニティの輪を広げていくことを目的とする科目です。ピア・サポートは、広い意味で同じ立場にあるもの同士がお互いに支え合う活動を意味します。本学では、学生自治会に加え、2年生が新入生を支援するオリター活動、ボランティアに取り組む学生とボランティア活動をマッチするボランティア・コーディネーター、図書館でのサポートを行うライブラリー・スタッフ、オープン・キャンパスに参画する入試広報学生スタッフといった多様なピア・サポート活動が展開されています。ピア・サポート論は、本学の大学文化を背景とし、教養教育科目群のなかの立命館らしい科目として設置されています。
ピア・サポート論では、表1のように、立命館の理念や歴史、若者の発達やアイデンティティ形成、学生同士が互いにサポートするためのコミュニケーションを学びます。教養教育科目として、自校教育を取り込んだ形で構成されています。授業では、実際にワークやディスカッションに取り組み、授業外の日常生活で学んだことを活かせるように促しています。授業内容をどの順序で構成するかは、年度によって異なります。私は、コミュニケーションのワークを経験する授業回のあと、それを活かして自大学の理念の意味や現代大学生の課題を話し合うように配置しています。また、コミュニケーションを学ぶうえでも、発信やプレゼンテーションといった伝えることを学ぶ前に、聴き方や傾聴・質問について学ぶようにし、学んだことを授業内でも実践できるように配置しています。ピア・サポート論では、日常生活での友人とのやりとりやアルバイト先での経験といったコミュニケーションを学習の素材として学びます。それによって、ふだんの日常生活で意識していないことを自覚(意識化)し、それを言語化することの方向づけができます。日常生活のコミュニケーションをめぐる意識化や言語化は、看護場面でのコミュニケーションのなかでの省察の土台となります。日常生活から省察的実践者となることで看護場面での省察的実践者になっていく、あるいは看護の省察能力の向上が日常生活に波及する、という相乗的な学生の成長を期待できます。
ピア・サポート論の授業アンケートや学びを総括する最終レポートでは、日常生活のなかのコミュニケーションを深く考えることで、自分の考え方や価値観に影響を受けたという声が寄せられます。「大学生活をなにげなく過ごしていたが、日常の出来事を深く考えるようになった」「自分自身のいままでの考え方が不十分だったと気づかされた」「友人とのコミュニケーションの仕方を深く考える機会となった」といった内容の感想です。本稿では、ピア・サポート論でどのように学生が学んでいるか、授業者がどのように働きかけているかを紹介したいと思います。
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