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はじめに―COVID-19感染拡大を防ぐための遠隔授業の導入
2019年の終わりごろから世界で新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)が流行しはじめ、2020年に入ってからは国内においても感染者が増加しはじめました。そして4月上旬には政府から緊急事態宣言が出され、これまでの社会生活にかかわる機能の多くが停止することを経験しました。
政府や自治体からの宣言などによって、初等教育機関をはじめ高等教育機関(以下、大学など)でもほとんどの生徒・学生たちは自宅待機することを求められました。
大学などでは対面授業の中止が相次ぎましたが、いつまでも休校にして学生の学びを止めたままにしておくことができず、遠隔授業(オンライン授業)で授業を再開するところが多くなってきました。遠隔授業とはICT(情報通信技術)を基盤とした授業形態で、国内では平成30年度に小規模少人数の小中学校を対象に事業が始まっています1)。
もちろんこの事業には今回のCOVID-19のような感染症対策という目的はなかったでしょうが、こうした流れと時を同じくして、結果的に国内の教育機関で一気に遠隔授業が導入されることになりました。
●遠隔授業のさまざまな実施方法
遠隔授業を専門としていない教員は、e-learningやオンライン会議システムなどの受講経験は多少あったかもしれませんが、全面的に遠隔授業を行う側になるとは想像もしていなかったかもしれません。筆者の周囲でも、多くの教員は遠隔授業の実施に当たり、対面での授業とは異なる工夫が必要そうだとは感じていましたが、当初はその違いが何かも見いだせず、LMS(学習管理システム)の種類や使用方法などもよくわかっていない状態でした。そんな教員でも試行錯誤しながら、なんとか授業を組み立てて提供しているという状況だろうと推測します。筆者もその1人です。
また今回は、学生側のインターネット環境やリテラシーが十分なのかも確認ができず2)、新入生においては一度も顔を見たことがないまま遠隔授業に移行したため、混乱をきたしたという大学なども多くあったことでしょう。さらに看護などの医療者養成機関においては、学内で行う演習や、病院での臨地実習が必須となっており、遠隔授業で行う難しさや限界があるとも耳にします。
遠隔授業の種類と特徴について、表1にまとめます3)。
●COVID-19流行下の、発達障害の特性がある人たちの様子
筆者はNPOの活動で、発達障害のある児者の支援を20年近く行っています。ふだんは定期的に地域の公民館などに集まって活動していたのですが、COVID-19によってNPOの活動もこれまでどおりにいかなくなり、オンライン会議システムを用いて交流を行うことになりました。
そのときに発達障害のある人たちから聞こえてきた声としては、「世の中が自粛を強制してきて気持ちがしんどい」「同調圧力を感じつらい」「手洗いやマスクなど、言われたことをやっている、でも感染するかもしれないから怖くて外に出られない」「これまでインターネットを閲覧することで気晴らしをしてきたが、授業で急にパソコンを使うことが増え疲れるので気晴らしのためインターネットを見ていると注意される」などでした。世の中の空気感の変化によってストレスや不安を感じた人、これまでと同じように自分なりの生活をしているのに周りが変わったことで注意を受けた人などがみられました。
また保護者からは、「朝から晩まで子どもと顔を合わせているので疲れた」「世の中がこんなに変化してもあまり動じずこれまでどおりに過ごしていて、すごいと感じる」「日本中のすべての子たちが学校に行かず家にいることで、不登校傾向でひきこもっている自分の子どもが家にいることがストレスに感じなかった」など、家庭での生活の様子や保護者の子どものとらえ方に変化がみられたという感想もありました。
ここで感じたのは、世の中がとても不安定・不確実なことが増え、“新しい行動様式”を求められるなかで、発達障害のある人たちは社会や周囲に合わせてこれまでの自分の生活や行動を、障害特性がない人たちのように器用に変更させられないということでした。やはりどのような状況下でも、発達障害ならではの特性が表れていて、苦手なことは苦手、得意なことは得意、ということのようです。
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