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はじめに
このたび、看護基礎教育が変わります。「在宅看護論」が「地域・在宅看護論」となり、「基礎看護学」の次の科目に位置づきました。ここでは「地域・在宅看護論」で扱う内容とその意味について話したいと思います。
これまで、みなさまは「在宅看護論」をどのように考えていましたか。在宅看護は訪問看護とイコールではないことは、執筆した教科書『系統看護学講座 在宅看護論 第5版』でもふれていますし、退院支援が多くの病院で標準的に行われる前から、その仕事は在宅看護実践の1つであると解説を繰り返してきました。
では、在宅看護は訪問看護だけでなく退院支援も含む看護の考え方であるとした場合、その定義は何だったのでしょうね。私は大学の仕事で、在宅看護専門看護師と訪問看護認定看護師の教育を担っていましたので、在宅看護と訪問看護の関係についてはよく考えさせられました。そこで一応納得できたことは、すべての人は病気や障害や加齢によって暮らしにくさを感じたとしても、それが自宅で暮らすことができないことを意味するものではないということです。つまり在宅看護実践は、こうした暮らしにくさを感じている人が自分の暮らしを取り戻すことを支援する総合的な看護実践であり、「在宅看護論」はそれを学ぶための知識が整理されているのだという理解です。
ナイチンゲールの時代から、患者が自分の暮らしに戻っていくことの支援は重要視されていたように、人が社会から隔絶されて病床や施設の居室で暮らし続けることは普通ではなく、自分の居場所で好きなように暮らすことがむしろ普通であるという考えにあらためて執着した看護実践が在宅看護なのだということです。もちろん、家にいさえすれば良いのかという議論もあるでしょう。衛生状態の悪い自宅で人の支援を受けずに暮らしていることは悪でしょうか。本人がそれでよいと考えているなら、その限られた環境での最善をみんなで考えるのが在宅看護の立ち位置かもしれません。良いか悪いかの判断は、とことん本人の意向によることを徹底して従事することが在宅看護実践であり、すなわちそこには葛藤がついて回る状況であるということです。
こうした考えに基づき、地域包括ケアシステムとか共生社会をめざそうとしている今の時代において、「地域・在宅看護論」が何を扱おうとしているのか、イメージをふらませてほしいと考え、いくつか話題を提供してみます。
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