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はじめに
2011年に開催された闘病記研究会シンポジウムにおいて,「患者の語りが医学教育に活用され始めた今,医学教育や看護学教育に闘病記をいかに有効活用していくか」が議論された。闘病記の活用は,患者を取り巻くさまざまな問題への関心が広がることや個別性の理解につながり,有用であることが示され1),2016年10月に開催された闘病記研究会フォーラム「闘病記が出版される意義・読まれる意義」では,看護師による「闘病記」の読書会や看護学生の授業に「闘病記」が活用され始めていることが報告された。
医療従事者が闘病記から得たことについて調査した前田は,闘病記を読むと,患者や家族の生活を容易に理解することができる2)と述べている。闘病記の活用方法は,読書会方式や読書感想文の記述,事例で用いるなどであり,門林らは,看護基礎教育のなかで成人看護論での闘病記を用いた授業を展開している。その結果,闘病記を読むことは看護学生にとって患者を広く理解するための方法として,また生と死を考える,自己を見つめる機会としても大きな意味がある,闘病記を取り入れた教育が果たす役割は大きい3)と述べており,患者の理解や看護を考えて実践していくうえで役立つものであることを示唆している。
自分の身近な人の病や死を体験したことがない学生にとって,回復の見込みがないと宣告された人たちの身体的状況,心理的状況などその人をとりまくさまざまなことを理解することは容易ではない。ましてやそのような状況にある人を対象に看護を展開することは,さらに困難なことである。生き方や価値観など多様化している時代において,看護学生が多様な視点をもち多くのことを知る・感じることは重要であり,闘病記を読むことは学生の視野を広げるために有効であると考える。
そこで本校では,ビブリオバトルで闘病記の書籍紹介をすることで多様な視点への気づきをもつことや,プレゼンテーション能力の向上にもつながると考え,司書の協力も得て「ビブリオバトル:闘病記編」を実施した。
ビブリオバトルとは,京都大学から広まった輪読会・読書会,または勉強会の形式で知的書評合戦とも呼ばれており,現在,本の紹介コミュニケーションゲームとして,「人を通して本を知る 本を通して人を知る」をキャッチコピーに全国的に広がってきている。
ビブリオバトルでは,単に本を紹介するだけでなく,本を媒介にコミュニケーションを図るものである。また,ビブリオバトルの機能として,①書籍紹介機能,②スピーチ能力向上機能,③良書探索機能,④コミュニティ開発機能 の4つがあるといわれ,教育現場では読書量の向上と,読書内容を簡潔にまとめるプレゼンテーション能力の向上も期待されるという4)。
今回は,「闘病記」の活用をビブリオバトルで行うことが看護学生にとってどのような意味・効果をもつのか検討した結果を報告する。
本校の概要
本校は,「自ら感じ・考え・行動できる看護師の育成」を教育理念とした神戸市民間病院協会設置主体の看護師養成所3年課程である。1学年の学生定員数70名で,昨今は社会人経験者の入学者が多く,約6割を占めている。年齢18歳から40歳代と生活体験の少ない年代からさまざまな社会体験を経験している年代と年齢層が幅広く,教育背景や学生のレディネス,物事のとらえ方・価値観なども大変多様であり,学生同士での学びあいには適した学習環境であると考え,学年の縦割グループによる学生自立型のピアサポート体制注1を設け学生間の交流・学習に活かせるような取り組みを行っている。
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