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先日,新作映画『キャピタリズム;マネーは踊る』の公開に合わせてマイケル・ムーア米映画監督が来日した.インタビューのなかで「日本で医療費が払えなくて自宅が差し押さえになった人を知っていますか?米国では7秒半に1軒の割合で差し押さえが行われている.なぜ母国だけがこんな状態なのか」と嘆いていた.昨年の報告によると米国で個人破産の原因の第1位は医療費だという.マイケル・ムーア監督といえば,映画『シッコ』をみた人は多いと思う.国民皆保険制度がなく,民間の保険会社に頼るしかない米国医療のひどい状況を告発し,「米国の医療制度はシッコ(sicko=俗語で病人の意)だ」と訴えた作品である.実は,医療保険に加入している人でも,民間保険会社の営利追及の被害者としてひどい扱いを受けている.ひとたび病気になるとたちまち破産したり,医療を受けられずに命を落とす現実があることをあの映画で知った.医療に市場原理主義に基づく民営化路線をもち込むと,あのような悲惨な姿になるのである.
米国は世界第1位の経済大国でありながら,先進国で唯一公的健康保険制度をもたない国である.一方,日本には国民皆保険制度があり,窓口での一部負担はあるが,健康保険証1枚あれば,いつでも,どこでも,誰でも,医療を受けることができる.この制度のおかげで,日本は今日の長寿社会を作り上げることができた.1993年にClinton health care planを掲げた当時のヒラリー・クリントン上院議員は,国民皆保険の導入を提言した.しかし,彼女は来日して日本の医療を観察し,「日本では医療従事者が聖職者さながらの自己犠牲で働いているから医療がもっている」と,米国での国民皆保険の導入を断念した.当時私は,「日本には医は仁術という心が残っている」とこの報道をうれしく聞いたが,最近ではいつまでも自己犠牲に頼っているだけでは成り立たないのではないかと思うようになった.ましてや,これからの若い人にそれを強いることは無理であろう.われわれ脳神経外科医は,その厳しい職務に見合うだけの社会的,経済的な評価を受けているであろうか.若い人に脳神経外科に入局してもらうためには,現在のスタッフの労働環境を改善しないといけない.スタッフの生き生きとした仕事ぶりをみて,学生は入局を希望するのである.まずは,一教室でできることから始めたい.
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