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書評 ─『異端の看護教育 中西睦子が語る』─著者想定の枠組みさえ超越する者に向けた“遺言書”
西村 ユミ
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1首都大学東京健康福祉学部看護学科
pp.1105
発行日 2015年11月25日
Published Date 2015/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663200388
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書名が示している通り,本書は「看護教育」を担う者,人を育てる立場にある者に向けて編まれている。だからこそ,随所で「問題意識をもつ人をどう育てるか」が問われる。本書においては,その育て方,それを語った著者が「異端」とされる。たとえば,「生意気な」「わがままなナースを育てなさい」「ナースをダメにしたのは看護教育である」等々。本書で著者の聞き手であった─著者の言葉を生み出す媒体の役割を担った─松澤和正氏が形容した「鋭利」かつ「シニカルで独我的」という表現が,見事にこれを言い当てている。
しかし,こうした類の表現に幾度も出会ううちに,それは「異端」というよりも,ある種の心地よさを感じさせる表現に変わってしまう。読み手である自身も知らぬ間に,異端とも言える態度でもって世界にかかわろうとしているためだ。本書が「感染」と言っている事態に読者がまんまと陥り,「これでまた一人中西流に感染した」と言って,著者が含み笑いをしているのが目に浮かぶ。この感染者として「学生」を挙げていることから,本書は,著者流の態度に感染させられる可能性を孕んだ読み手に,育ちつつある者をも想定して編まれている。著者においては,教育する者とされる者とは,二項対立していないのであろう。
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