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はじめに
近年,大学の質的転換が強く迫られ,中央教育審議会の「学士課程教育の構築に向けて」では,知識が体系的に理解されていることと同時に,コミュニケーションスキル・情報リテラシーなどの汎用性技能や,チームワークへの指向性などの態度・志向性を育成することがあげられた1)。さらに4年後の「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて〜生涯学び続け,主体的に考える力を育成する大学へ(答申)」2)では,能動的学修(アクティブラーニング)への転換の必要性が示され,より具体的な内容の質的転換が唱えられた。大学および教員には,教育の理念的な転換に留まらず,知識伝達型の講義から双方向の講義,演習,実験などの授業形態への転換のようなソフト面(知識・スキルなど)と,ハード面(教室の設備やネット環境など)の準備が求められている。また,大学や教員がどのような教育を行うのかというteachingから,学生がどのように学んでいるのかというlearningを重視することが提唱されている。このような背景を受け,看護教育においても能動的学修が注目されている。
Problem-Based Learning(問題基盤型学習 以下,PBL)が医学教育から生じたように,医学・看護教育においては比較的早期から,能動的な学修に取り組んできた。著しい発展を遂げる医療に携わる看護学では,生涯学習の態度を習得することや知識の応用力を身につけることは非常に重要である。能動的学修の一つであるPBLの効果には,不確かさへの対処,法的倫理的側面の認識,コミュニケーション能力,主体的継続的な学習の4つの能力が強化されたことが報告され3),看護教育においても,対人関係・問題解決能力が育ち,学生の達成感・成就感があったと報告された4)。しかし,能動的学修の導入や運用では,変革に対する教員の抵抗,教員同士が共通認識をもつことの難しさ,人材確保,過密なカリキュラムのなかでの時間確保,経済的課題などさまざまな課題を実感することも多い。教員も学生もPBLの成果の実感よりも負担感が先行してしまうこともある。能動的学修の推進においては,これらの実践的な課題をどのように克服するのかは重要と考える。
これらの課題への示唆を得るため,看護教育にPBLを導入して20年以上の歴史があるオランダのZUYD大学(Zuyd University of Applied Science, Faculty of Health and Care)の看護学部へ2013年11月25〜26日に視察調査した(写真1)。
この視察調査では,PBL教育のカリキュラム開発などに携わった教員へ,PBL教育を導入した経緯,PBL教育の概要,PBL教育における留意点に関して3時間のインタビューと,PBL教育(授業と技術教育)の見学を行った。本稿では,ZUYD大学の看護教育の状況を報告し,それをふまえて日本の看護教育について考察を述べることとする。
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