特別記事 書いて深まる看護観(2)─エッセイを書くことで心が豊かになる
患者さまの内なる力を信じて看護するということ
武田 好実
1
1横浜市病院協会看護専門学校
pp.217-219
発行日 2013年3月25日
Published Date 2013/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663102343
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私がAさんと出会ったのは,看護学校に入学して3年目の老年看護学実習であった。Aさんは,誤嚥性肺炎で入院し,約3か月が経過しており,長期の臥床生活により身体機能や嚥下機能が低下している状況であった。さらに,認知症もあるということを知った。私は,今まで認知症の患者さまを受け持った経験がなかったため,実際に会うまでは「どんな人なんだろう。どう関わったらよいのだろう」という不安でいっぱいだった。
私が,初めて挨拶をしようと病室に訪れたときのAさんの表情は,今でも忘れられない。Aさんは,目を大きく開け,辺りをキョロキョロと見ており,私が話しかけると瞬きもせず,じーっと私を見つめた。私は,Aさんの感情のない瞳に吸い込まれるかのように冷たい感覚に包まれ,病室にはAさんと2人だけしかいないのではないかという感覚にも陥った。挨拶をして病室を後にした私は,Aさんの冷たい瞳が頭から離れず,明日からどのように接したらよいのかという不安で胸がいっぱいになった。それと同時に,今までのコミュニケーションは,いかに相手の言葉や反応に頼ったものであったかということを思い知った。
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