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連載のはじめに
基礎看護学領域は,看護学への導入と学生生活への導入が重なる時期の科目を担当する。一年生の多くは高等学校を卒業したての学生で,教員とのジェネレーション・ギャップは年々広がっていく。一人の学生だけがそうだったとしても,一般論として「今の学生は……」と言いたがるのが年長者の常であるが,看護教員も「今の学生は生活体験がない,器用でない,気が利かない,マニュアルを好む,答えを知りたがる,コミュニケーションが取れない,レポートが書けない」と言っているのではないだろか。その教員自身もかつて学生だった頃,当時の教員からきっと同じことを言われていたに違いない。
少子高齢社会が到来し,18歳人口が減少していることは周知のことであるが,その56.7%が大学・短期大学に進学し,専門学校・高等専門学校を含めて79.5%が,高等教育機関へ進学している時代である1)。看護学生のみならず大学生全般の学習状況について,種々検討がされ,大学生が身につけるべき能力は何かが問われ,学士力という言葉が浸透してきている2)。次いで学士力が身につく学修方法はどうあるべきかが打ち出され3),主体的な学び(アクティブラーニング)という言葉があふれてきている※。この流れは,学ぶ素材を用意しておけば(研究成果が素材となる),学生が自分で関心あるものを探し出して学んでいく,あるいは大教室での顔がわからない一方的講義でも,知は伝達できるという前提に立った,日本の大学教育の方法に切り替えを迫っている。
学生の学習準備状態(レディネス)に合わせて学習素材を用意し,系統的に学ぶ道筋を示し,かつ学ぶのは学生自身であるというのは当たり前の話である。
学生の学習準備状態は絶えず変化していたにもかかわらず,教育方法や学習素材をその変化に合わせて変えてこなかったことが,高等教育機関の教育力低下をもたらし,昨今のアクティブラーニング等の強調になったと思う。
もともと看護教育は,学ぶ道筋が明確で,系統的なカリキュラムになっている。保健師助産師看護師学校養成所指定規則がすべての養成機関に課せられているため,どの機関でも内容は大同小異であり,大学に関していえば,その独自性をつくりだすのが難しいほどである。大学化が進んでも,教員は研究より教育に時間を注ぎ,学生数も少な目であり,今日問題になっている大学教育全般の課題と,看護系教育機関の課題は必ずしも一致しない。しかし,教員が考える学習準備状態ではなく,実際の学習準備状態を確認し,学生主体の学びができる教育方法を模索するべき時期にあるのは,看護教育界も同様と考える。
そこで冒頭に述べたような教員の意見は,学生の実態なのかどうか,もし実態ならばそれに対応した取り組みをしなければいけないということで,2007(平成19)年度~2010(平成22)年度の4年間にわたり,看護学導入期の学生の状況把握と,それに対応する教育内容・方法の検討を行った。学生の変化は,少子高齢社会がその背景にあると考え,少子化社会をキーワードにして,「少子化社会の学生の特性に合わせた看護学導入プログラムの開発」というテーマで,文部科学省の科研費を得て実施した。
このたび,この研究によってわかったこと,試みた教育方法について,3回にわたる連載の機会を得た。今回は看護系大学1年生の生活体験の状況と,基礎看護学領域の教員がとらえる学生の特徴について,第2回では学生が感じる困難について,第3回では学生の困難と特性に対応して工夫した教材と,その活用状況について報告したい。
※IDE現代の高等教育No.543(2012)は「主体的な学習」を特集しているので参照されたい
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