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書評 ―『幻聴妄想かるた 解説冊子+CD「市原悦子の読み札音声」+DVD「幻聴妄想かるたが生まれた場所」付』―精神看護学や地域看護学でぜひ活用したい素材
木挽 秀夫
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1ケアネットジャパンにじいろ看護ステーション
pp.219
発行日 2012年3月25日
Published Date 2012/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663102028
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実際にかるたを手に取ってみました。私のお気に入りは,「先生『それは妄想です』 僕『いやテレパシーだ』」。この会話は,自分が精神科看護師だった頃にさんざん見かけた光景です。自分たちが患者さんたちの現実を見ていないことがよくわかる場面だと思います。また,「眠れない日が続くと 聞こえてくるジェットエンジン音」と「脳の中に機械が埋め込まれ しっちゃかめっちゃかだ」の札からは,患者さんの症状の不快さが伝わってきます。今まで私たちは医療者の現実から患者さんの幻聴妄想を推し量っていましたが,この「かるた」という短い文面によって,患者さんの現実がズバリと自分の思考に入ってきました。
では医療関係の学校で,このかるたを教材として使うとすれば,どのような効果があるでしょう。1つは,ハーモニーという施設でこのかるたを製造・販売した経緯を紹介することで,学生が当事者の「社会での生活」について考える機会になります。多くの社会復帰施設では,職員が必死な思いをしながら地域から内職の仕事をもらい,当事者がそれを細々と行い,しかも時給が極端に安いという現実があります。しかしハーモニーは,そうした仕事のあり方から発想を変え,当事者たちが自分たちの幻聴妄想を資本に,かるたという商品にしてお金を稼ぐという形を取りました。実際『幻聴妄想かるた』は製造した2008年当初から評判となり,500部を販売してきたといいます。こうした商売のあり方から,精神の病をかかえた人たちが地域で生活するという意味を考えることができます。
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