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統合失調症患者の複雑かつ多様な世界をどのように伝えるか
栃木の国際医療福祉大学に赴任し,1年半が過ぎた.本学は理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,視機能矯正士などの医療専門職をめざす若い学生が多く学んでいる.現在筆者は「精神医学」「児童精神医学」「神経心理学概論」等の講義をしている.臨床医療においては上記のテーマを実践し,時には学術的に議論してきたつもりであったが,医療職をめざす学生を対象にして特に「精神医学」を一連の講義のなかで伝えていくことはひどく難しいと当初感じていた.
例えば,統合失調症や気分障害などの内因性精神障害と器質性精神障害の差異は,画像診断を提示し症候学的に説明していくことができる.ストレスや環境変化によって生じる心因性精神障害については,精神分析家の膨大な思索を引用しつつ,近年のICD-10(International Classification of Disease;国際疾病分類)やDSM-Ⅳ-TR(The Diagnostic and Statifical Manual of Mental Disorders;精神障害の分類と診断の手引き)によるカテゴリー分類にも触れて障害のさらに細分化された特徴を語ることができる.しかし,「いちばん重要なことが伝えにくい!」.それは統合失調症の症状の理解と精神科リハビリテーションへの動機づけである.統合失調症に薬物療法が大切なことは言うまでもない.しかし,臨床現場では,薬物療法だけを行っていれば統合失調症がよくなっていくわけではない.非薬物療法(精神療法,心理介入,認知行動療法,家族教育,デイケア)をどう組み合わせいくか? その点に精神科医と医療スタッフの手腕が発揮される.同じ統合失調症の治療であっても,入院治療と外来治療ではそもそも治療構造が異なる.急性期治療と慢性期治療では,立ち現われてくる症状そのものにも違いがある.そもそも,現実に目の前の患者さんがいない状況で,医療の世界を学ぼうとする学生に統合失調症患者さんの複雑かつ多様な世界をどのように伝えればよいのだろうか?
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