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ここ10年,研究倫理が社会的に強く求められるようになった。多くの学術雑誌や学会発表においても研究を実施する際の倫理的配慮が求められ,基準を満たさないものは受け付けてもらえなくなった。当初は,「手間が増えたなー」と正直思った。でも所属機関の研究倫理審査会に携わる過程で,研究倫理を考えることは研究を精錬することに他ならないと実感している。本書は,そういった視点で,研究の計画,実施,公表といった進行段階を追いながら,何を大切にし,どのように倫理的な配慮をしていけばよいのかがわかりやすく説明されている。研究は対象者に何らかの負担を強いるものなので,情報や資料の収集は成果が得られる最低限に絞るべきである。何が最低限かを考えることは倫理的であるだけでなく,自分の研究の意義を問い直し,「何がわかればよいのか,何を捨てても大丈夫なのか」を突き詰めることになるのでリサーチクエスチョンの精錬につながる。また著者らが勧めるように研究の実施手順書を作成することは研究の実行可能性を確認する上で役立つ。
本書の「I 研究のはじめに」では,研究倫理の基本原則を,「II 研究方法と配慮」では,聞き取り調査や症例対照研究などさまざまな研究方法ごとに具体的に配慮しなければならない点が解説される。研究倫理として,インフォームド・コンセントの受領や個人情報の保護などの基本原則は理解していても,それをどのように具現化していくのかに頭を悩ますことは多い。当然,研究方法によって配慮すべき点が異なってくる。本書は著者らが1998年に始めた,疫学研究のインフォームド・コンセントに関する研究班の長年の活動を基に書かれたもので,痒い所に手が届く実践的な内容が散りばめられている。
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