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本書は,看護学生,看護師,看護師長というそれぞれの立場による看護の実践経験を,物語として解き明かそうとするものである。一人ひとりの物語には,看護師のひたむきさや患者の辛い思いを包含する豊かな表現があり,読み手の心を引き寄せる。しかし,本書は,物語の読み方あるいはその意図のすべてを読み手に委ねようとはしていない。それぞれの物語が,なぜ読み手の心を揺さぶるのか,どうして看護実践を凄いと思わせるのかについて,執筆者らが深い解釈や説明を投げかけ,読み手の思考を刺激し広げてくれている。
最初に紹介される看護学生の物語は,本誌の看護学生論文エッセイ部門に取り上げられたものである。看護学生は,病む人の「がんばる力」を引き出すことや「共感すること」あるいは「そばにいることの意味」など,看護だと実感した出来事をみずみずしい感性のなかで書き上げている。執筆者の一人である柳田邦男氏は,看護学生の物語について,専門的知識を知らないからこそ書けるという。そのような物語には,感性に揺さぶられた多くの「気づき」が見出されている。二つ目の看護実践の物語は,「見えにくい看護の力を書く」ために「帰納的な道筋で『経験』をたどる」方法に取り組んでこられた陣田泰子氏によって構成されている。実践経験がなぜ忘れられないのか,本書の物語を読み進めることによって「看護の力」が浮かび上がってくる。それは,先輩から後輩に引き継がれる看護であり,不思議な巡り合いをもたらす小児看護などであり,実践経験の意味が物語から解き明かされてくる。三つ目は,看護師長による看護実践の物語である。看護師長だからこそ「なんとかしなければいけない」ことがあり,その姿は「看護師の成長」を支えることや「責任をとる」ことなどとして描きだされている。この箇所の担当者である佐藤紀子氏は「臨床の知」の解明に取り組まれており,佐藤氏のことばからは,臨床看護の可能性を引き出すのは,看護師長あなたですよという応援メッセージが伝わってくる。そして,本書の最後は執筆者らによる意見交換であり,書くことが看護実践を変えていく「気づき」になるとして締めくくっている。
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