連載 実習の経験知 育ちの支援で師は育つ・1【新連載】
先生の先生は学生だった
新納 美美
1
1東京大学大学院医学系研究科
pp.780-784
発行日 2011年9月25日
Published Date 2011/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663101874
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教え方が知りたくて
11年ほど前,私は知人の紹介を断りきれなくなったことがきっかけで大学の教員になりました。保健師の仕事をしながら研究を続けるつもりで職を探していたので,自分で決めたこととはいえ,心の片隅では教える立場に立つことになった自分が受けとめきれていませんでした。「研究を続けるために教育職を選んだのだ」と自分を納得させ,教える立場になることを意識の外に追い出したまま赴任しました。なんとかなるだろう,少しずつ慣れたらいい……そんな気持ちでした。
ところが,着任直後の私に最初に与えられたのは,白衣と実習指導でした。フィールドは隣接する大学病院の精神神経科……精神科の実務経験がないに等しい私は,正直何をどうしたらいいかわかりませんでした。学生が授業で教わった内容もまったくわかりませんでしたが,プログラムが始まっているので前に進むしかありませんでした。初めの2週間は上司がよく来てくれたので安心感はありましたが,学生から「先生」と呼ばれるたびに逃げだしたくなりました。格好も立場も確かに教員ではありましたが,中身は心の準備すらできておらず,“教え方”も知りませんでした。教え方を知らない自分を「先生」と呼ぶ学生に向き合うことが,私は心底怖かったのでした。
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