第2特集 看護学生論文─入選エッセイ・論文の発表
論文部門
持ちうるセルフケア能力を最大限に引き出す援助―認知症の患者がその人らしい生活を維持するために
松本 智恵
1
1蒲田医師会立看護高等専修学校
pp.686-690
発行日 2010年8月25日
Published Date 2010/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663101536
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はじめに
認知症状は環境や人が変わると顕著になる。また,症状の現れ方や進行度は,個人によって異なる。ひとたび認知症のレッテルを貼られてしまうと,他の身体疾患とは異なり,周囲の者が回復への必死の努力をあきらめる傾向があるが,あきらめは心理的・肉体的負担感を増幅する。それゆえ,評価するときは,「できないことを探すのではなく,できることをみつけること」が重要である,と精神疾患・痴呆症を持つ人への看護の著者,小林氏・坂田氏は述べている1)。
私も実習で認知症の患者を受け持った時,この患者に対しできることを探し援助していくことが必要だと考えた。例えば,自らが食事の後に歯を磨くことが必要だと判断し,自分の意思で行うことが行為である。歯ブラシを渡し「磨いてください」と促すことで,手を動かすことは動作である。認知症とは運動機能が損なわれていないにもかかわらず,動作を遂行する能力が障害されているため食事の後だから歯磨きが必要だ,ということが自覚できない。しかし,促しによって歯磨きを行うことは可能である。他の日常生活動作についても同様である。次の動作を促すことによりA氏の日常生活機能を維持し,A氏の生活を維持することが,A氏らしく生きるということではないかと考えた。だが,どこまでのセルフケアが可能か判断することはとても難しい。私は,患者のセルフケア能力の限界をここまでと無意識に決めつけてしまった。看護者がここまでであると判断して促しを行わなくなった時点で患者の自分で行える日常生活動作はそこまでになってしまう。反省を踏まえて認知症の患者の持ちうるセルフケア能力を最大限に引き出す援助について考えたい。
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