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●【主な論文】「看護教育の挑戦:英語が母国語ではない学生」 が示唆する異文化コミュニケーションの効果
昨年もタンザニアでの助産体験を記事【49巻7,9号】にさせていただきましたが,現在も博士論文のデータコレクションのためにタンザニアに滞在中です。3か月の滞在で,データコレクション以外にも,病院での助産活動ボランティアや現地の友達との交流を通して,現地の文化を学んでいます。『JNE』9月号でも「英語が母国語ではない学生」への教育の問題を扱っていますが,そこでも重要なのは「言語だけではなく,文化である」と言われています。ひと言で“看護”といっても,文化が異なると,何を大切にしたいのかが変わってきます。異文化での看護研究を行ううえで,現地の看護を理解するために,現地の人に溶け込んで文化を学ぶことはとても大事な研究プロセスの一環です。私自身としても,昨年まったくの外国人として見たタンザニアの文化や看護への印象に比べ,今現在の視点は変わってきているのを感じます。博論審査を受ける文化人類学教授からも,「2,3か月というのは視点が変わってくるひとつの区切りのようなもので,これが6か月,1年となると自分の異文化への移行をダイナミックに感じることができる。だからこそ文化人類学の博士研究は,最低1年現地に住むことを条件としている」と言われました。私の研究はあくまで看護研究であり,研究課題としても1年住む必要はないのですが,少なくとも2,3か月しっかり現地の人と関わることの大切さを,身をもって感じました。昨年は,期間が1か月と短かったこともあり,あくまで先進国で教育を受けた助産師として,現場の医療に関し特に先進国との違いである「何が足りていないのか」に焦点を当てて見ていたように思います。スワヒリ語も分からなかったこともあり,現地の人がどう生活し,何を考え,何を大切にしているのかまでは思考が至りませんでした。例えば,初歩的なことですが,タンザニアにおける挨拶の大切さも今回改めて気がつきました。データコレクションのインタビューには現地の女性に通訳として入ってもらったのですが,朝その女性とコレクション先の病院の玄関で会って,産婦人科病棟に着くまでに,実質5分かからない距離なのですが,1時間近くかかることがありました。というのも,その女性は過去にその病院のスタッフであったためたくさんの友人がおり,一人ひとりに“挨拶”をするのに時間がかかるのです。タンザニアでは,朝の挨拶として,「朝はどうですか?」「いいです」「ご家庭はどうですか?」「いいです」「お仕事はどうですか?」「いいです」とひと通りその人の周辺について尋ね,逆に自分についても聞かれて答え,更に会話が終了するまで“挨拶”が終わりません。最初は,病棟に着いてインタビューを開始したい衝動にかられましたが,そこでタンザニアに“会話を大切にする文化”があることを学び,それ以降は私もそのように現地人とスワヒリ語で挨拶をするようになりました。そうすると,調べ物等で他の病棟に出向いたときに,その人たちが助けになってくれるのです。そうして仲良くなった友達と一緒に料理をしたり,出かけるようになり,実際のタンザニア人の生活や言葉を知ることになりました。挨拶がいかに人と人とをつなげ,助けになるものかを実感しました。
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