特集関連 CINEMA REVIEW
ひとの縁から映画が生まれた
土本 亜理子
pp.1019
発行日 2008年11月25日
Published Date 2008/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663101061
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保健室で子どもと向き合い,退職後も“いのちの授業”をして,ときどき大人に講演する山ちゃん(山田泉さん)は声に張りがあり,乳がんになっても,転移した今だって元気に見える。が,家では素のままだ。朝の台所。起きがけのボサボサ頭で大根を切りながら,「子どもは母親が泣いたり,喚いたり,ものすごく死に対して恐怖に思っているとか,これからの治療をすごく不安に思っているとか言う相手じゃない。やっぱり子どもは守る相手や」……。映画『ご縁玉』の冒頭に本音を口にするシーンが出てくる。
その「母親」が涙した。横になる山ちゃん。お腹に置かれたチェロから低い音が響く。フランスからやってきたチェリスト,エリックマリア・クテュリエ氏,彼のチョロを聞いている間だけ涙腺を開けることができた。海の波を思い起こさせる懐深い音が,バッハの無伴奏組曲をはじめとしたチェロの音色が,全編やさしく,時に力強く覆うこの映画は,山ちゃんとエリックマリア氏の出会いの物語だ。
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