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はじめに
平成8(1996)年に保健師助産師看護師学校養成所指定規則が改正されて以来,約10年ぶりに保健師,助産師,看護師のカリキュラムの改正に向けて「看護基礎教育の充実に関する検討会」(以下,検討会と略す)が開催され,平成19年4月16日付けで報告書1)が公表された。この10年間に看護をめぐる社会状況は大きく変化し,看護基礎教育についてもいくつかの検討会が行われてきた。
「看護基礎教育における技術教育の在り方に関する検討会報告書」2)では,在院日数の短縮化に伴い,急性期病院では学生が行う看護技術実習の範囲や機会が限定されてきているという状況があり,技術に関する教育が個々の看護師学校養成所ごとに異なってきており,卒業直後の看護師の技術能力にも差が出ているという課題が挙げられていた。同報告書では,卒業直後の看護師の能力と臨床で求められる能力のギャップが大きく,安全で適切な看護を提供することへの影響も懸念されていると述べている。
「新人看護職員の臨床実践能力の向上に関する検討会報告書」3)でも,各学校養成所での看護技術の到達度に差が生じていることが指摘された一方,医療機関では医療事故防止の視点から,患者や家族の意識の変化等により学生が看護技術を実践の場で実施できる機会が限定される傾向にあるという報告もされている。また,最近の看護基礎教育では多くの場合,学生が一人の患者を受け持ち看護ケアを計画・実践・評価するという実習方法がとられてきているために,臨床現場で複数の患者を対象にし,ケアの優先度を考えながら時間内に業務を実施するという能力を身につけることはきわめて困難な現状があり,このことが,卒業後の新卒看護師のギャップにもつながっているという指摘もされてきた3)。
一方,看護職に期待される役割や実践能力は以前にも増して多様になり,新人看護師の教育のあり方検討会の報告書が出され,新人研修のあり方についての指針が出たものの,制度化に至っていない。教育と臨床のギャップはいつの時代にも存在したが,今回のカリキュラム改正ではそのギャップを少しでも埋めるための,意図的取り組みが行われた。
本稿では検討会の一メンバーとしての立場から,看護師のカリキュラムに焦点をおいて,新カリキュラムの特徴,現行のカリキュラムとの相違点に焦点を当てて述べたい。改正点についてはできるだけ客観的に記述したつもりではあるが,見解については検討会を代表するものではなく,あくまでも私見であることを断っておきたい。
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