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はじめに
看護教師仁木コトは,戦後の看護教育草創期に保健婦教育と基礎看護教育に携わった。その遺稿集『いつくしみ』を通して,看護教師の昔と今を考えてみたい。
仁木は聖路加女子専門学校を卒業後,臨床看護の経験を経て,保健婦規則制定(昭和16年)の翌年に保健婦資格を取得した。そして,戦時下の東京で結核予防や乳幼児健診などの保健婦活動を行い,東京大空襲をくぐりぬけている。戦後の看護改革期には占領軍の米国ナースに同行して東北各県で改革に向けた指導の任に当たっている。上司であった米国ナースは仁木の人柄を愛し,“グッドナース”と周囲の人々に評したという。
仁木は「学生は人のいのちを守る井泉水」といい,入学してから卒業後も教え子の成長を見守り続けた教師であった。多くの卒業生が,「保健婦専門学院の在学期間は1年と短かったにもかかわらず,仁木のもとで過ごした期間は非常に意味のある濃縮された時間であった。卒業後も支えられ励まされて仕事を続けてきた」と語っている。
仁木コトは筆者にとって恩師であり,看護教師のモデルであり,目標であった。療養されていると聞きながら,お見舞しないうちに突然の訃報を聞いて強い衝撃をうけた。大きな喪失感を感じつつ葬儀の間中,先生に語りかけ,長い間に教えていただいたことのあれこれを胸の内で探り続けた。
そして,その学びをより確かなものにしたいという思いが強くなり,遺稿集をまとめることを考えた。遺稿集の出版は,多くの卒業生に喜んでもらえるだけでなく,全国で看護を学ぶ人,悩みながら看護の職にある人にも,仁木の教育実践の実際を知ってもらうのは意味のあることと考えた。(引用文はほとんどが遺稿集『いつくしみ』よりとっている)。
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