連載 使いみちのない時間・24[最終回]
挺水葉
丈久 了子
pp.1090-1093
発行日 2001年12月10日
Published Date 2001/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662902551
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杜の都と呼ばれ続けた街並みは,その梢の先に電球を灯し,暮れなずむ師走を照らしていた。都会の喧噪も,ここではなぜか懐かしい。比佐はしばらくぶりのその空気を,ゆっくりと吸い込んだ。退院の足でそのままこの地に出向いたのは,底深く沈めていた感情を沢木由岐に伝えるためだ。それでいて,社屋の前で比佐はためらった。かつては,自らも産業医として精神科医を勤めた建設会社。翻意したわけではない。――勤務時間が終了したら……。
カフェの窓越しに,定禅寺通りの往来を比佐はしばらく眺めていることにした。
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