連載 感染症 Up to Date・23
薬害エイズから何を学ぶか
尾崎 米厚
1
1国立公衆衛生院
pp.508-509
発行日 1997年6月10日
Published Date 1997/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662901594
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1996年度,エイズにまつわる話題で最も大きかったのはいわゆる薬害エイズであったことは疑いもない。1996年3月29日の和解成立で一定程度の区切りがついたかのように思われがちであるが,課題はまだまだ残されている。マスコミや原告支援者などの声を耳にすることも多かったが,公衆衛生従事者が,単にそのような論調に同調しているだけで,自らの専門家としての仕事へ反映させなくては意味がない。犯人が既にわかっているドラマを見て,犯人を非難することは誰でもできるが,今回の教訓を生かして事件を未然に防ぐことこそ重要である。本稿では,薬害エイズ問題から我々が何を学ぶのかを考えてみたい。
この訴訟は,1989年に大阪と東京で提起されたいわゆる「HIV訴訟」から端を発している。原告の数は当初14人だったが,被害者全員の救済を訴えていた。当時でも,プライバシー保護のための匿名訴訟として話題になった。また本訴訟は,単なる金銭賠償にとどまらず,治療体制の確立,差別解消などを含む「全面的」解決をめざしていた。そのためには政府に政策の変更を実行させることが必要であった。この病気の予後の悪さ,判決を選択しても金銭的事項しか決着がつかないことなどを考慮して,原告は「全面的」解決とその前提となる「被告の責任の明確化」を条件に和解を選んだのである。
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