連載 保健所長のひとりごと
トンネルの出口が見えた
星 融
1
1岐阜県関保健所
pp.314-315
発行日 1991年4月10日
Published Date 1991/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900223
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個々のケースとの出会い
40年間放置されていた分裂病患者がいた。50代半ばの彼女と,その世話を生きがいとする高齢の老母の2人暮らしだった。さすがの老母も体が衰え,家は足の踏み場もないくらいに乱雑で不潔,生活は不規則だった。肌が汚れても入浴せず,髪の毛が伸びほうだいで顔を隠してしまう。
私たちのような赤の他人が訪れたのは,何年ぶりかのことであったろう。彼女と視線が合わない。そこに保健婦と毎月,訪問を繰り返した。言葉は出ないがしだいに体に触れさせてくれるようになり,血圧や体重を計らせ,かすかな笑いも戻った。彼女が私たちの誘いにのって,何年ぶりかで家の外に出た時の,老母の驚きの目を忘れられない。
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