憧鉄雑感
第112回 疥癬トンネル悲喜交々
安部 正敏
1
Masatoshi ABE
1
1医療法人社団 廣仁会 札幌皮膚科クリニック
pp.1305-1305
発行日 2021年7月1日
Published Date 2021/7/1
DOI https://doi.org/10.18888/hi.0000002756
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“国境の長いトンネルを抜けると雪国であった”。言わずと知れた川端康成『雪国』の冒頭である。トンネルは鉄道旅行でもドラマを生む。長大トンネルは景色をガラリと変え,忘れえぬ旅の思い出となる。青函トンネルを出て北海道を感じ,関門トンネルを出て九州に触れる。本四備讃線所謂瀬戸大橋線は橋であるが,その始まりは本州側の鷲羽山トンネルであり,出た瞬間瀬戸内海が広がり四国を望む。ただ,筆者がトンネルといえば長崎トンネルである。これにより長崎本線は,市街地直下を通過することで旧線に比べ距離を大幅に短縮した。単線であるが,途中に信号場があり突然対向列車が現れる様は亡霊列車の如きである。子供の頃,長崎在住の筆者は,長期休暇で父の実家に帰省する列車道中が何よりの楽しみであった。間もなく旅が終わる直前,列車は長崎トンネルに突入する。トンネルを抜けると日常が待っていると思うと,止め処無く悲しくなるのであった……。
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