発言席
「噛めない,噛まない」現代人
福家 秀一
1
1福家歯科医院
pp.353
発行日 1990年5月10日
Published Date 1990/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900057
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以前,ある新聞で見つけた小さな記事が,妙に頭の片隅に残っています。「ごはんはよく噛んで食べましょう」と。これは50年前に,大阪市保健部が,食料難対策の1つとして提唱したものといいます。よく噛めば消化吸収がよくなるうえに,満腹感も得られるといい「ひとくち4,50回は噛みましょう」とか。そして,50年後の今,日本国内に限っていえば,食料品が町中にあふれ,外食産業が隆盛を極め,グルメブーム真っ盛りです。その中にあって,また「噛む」ことを見直そうという動きがここ2,3年,皮肉なことに飽食時代ゆえの深刻な悩みをもって,草の根運動的に盛り上がりつつあるようです。
日頃,診療に明け暮れている私たち歯科医にとっては,「噛まなくなった」影響が,現実に日々の臨床の中で,切実な問題として浮かび上がってきています。顎が十分発達しないことによる歯列不正の増加もそうでしょう。アゴの関節の発育不良が関係しているとみられる顎関節症の増加,あるいは嚙まないことに付随した,さまざまな要因が絡んで起きている歯周病(歯槽膿漏)の低年齢化等々。
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