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生きる―リヤカー
田邊 順一
1
1日本写真家協会
pp.89-92
発行日 1989年2月10日
Published Date 1989/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662207687
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芝田マサエさん
毎朝7時すぎ,1台のリヤカーが函館山の下の街にやってくる。芝田マサエさん,69歳。ここで焼きいもを売り始めて40年がたった。釜のなかには1日分として7,8本のさつまいもが入っている。1日の売り上げが千円,利益は2,3百円だ。1か月をこの焼いもと老齢福祉年金の合わせて3万円ほどで過ごす。だが,芝田さんは屈託がない。
大正8年,函館で生まれた芝田さんは,20歳で結婚。1男1女を生むが,長女は生後1年で早世。この頃には夫も結核で入院中だった。老母と病身の夫をかかえ,芝田さんは生活に追われつづけた。焼きいもも,このときに始めたものだった。看病の甲斐もなく,老母につづいて昭和33年の冬,夫も逝った。ガッタン,ゴットンと焼き場までリヤカーで運んだ。寒い日だった。
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