生きる

　「いまが一番幸せです。この家を離れたくありません」独りぐらしの多満さんはいう。

　石井多満さん、七十四歳。東京神田生れの多満さんが臨月のお腹をかかえて、ここ岩手県沢内村にやって来たのが昭和十九年の秋。長女出産を戦火を避けて夫の郷里でするためだった。以来、四十四年間住むことになる。