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―三好春樹著・イラスト 三好 京―イラストエッセイ「老人の生活リハビリ」
紙屋 克子
1
,
三好 春樹
2
1札幌麻生脳外科病院
2生活とリハビリ研究所
pp.866-867
発行日 1988年9月10日
Published Date 1988/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662207609
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老人と共に生きていく人々のための実践の書
三好春樹,三好京の両氏によるイラストエッセイ「老人の生活リハビリ」を読んだ。世界のどの国も経験したことのないスピードで高齢化社会の道を辿ってきたわが国は,老人の理解や彼らと共に生きてゆくための方法を模索して,かなりの混乱状態にあるといってよいだろう。かつては少数者の問題でしかなかった"老い"の課題を短期間のうちに多数者のものとして取り組まざるを得なかった社会が,老人を理解しようとするより先に,解釈しようとしたところにもその一因があるように思われる。老人たちとの生活を通して著者らが"老いる"ということをありのままに受け入れ,老人を生活者として理解することで掴みとった実践の成果のなかには,多くの人々の老人に対する誤った先入観や,老人の問題行動と表現されてきたものに対する修正を迫るものが少なくない。
臨床を例にみても,これまでは手術の対象でさえなかった高齢者が,確実な割合でベッドを占有するようになってきたのに,老人の生活現場への復帰プロセスについては,成壮年患者ほどには明らかにされていない。回復過程が遅いことにも「老人だから……,生命が助っただけでも善しとしなければ……」と,なかば諦めと後ろめたさの入り混った複雑な気持ちで放置してきた現状のなかで,このような実践の書が出てきたことに安堵の胸を撫でおろす思いである。
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