書評
—早川一光著—わらじ医者 京日記
中島 紀恵子
1
1千葉大学看護学部
pp.394-395
発行日 1980年5月10日
Published Date 1980/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662206250
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- 文献概要
著書は,京都の地で"わらじ医者"たらんとした医学徒が,それから20余年にわたって地域の人々と堀川病院を守り発展させてきた中で,老人とその家族の苦難に出会い,その人達のために職を全とうして歩み育んで生まれた成果の記録である。
副題は"ボケを看つめて"とあるが,むしろ"人間を看めて"としたほうがよいと思われるほど内容は広く深い。かといってこの本は,正座して読み終え"お勉強になりました"というような読み方を拒否するかのようである。柔らかな京言葉,平易で独得の語り口で,笑わせ,涙させ,共鳴させながら,下の方からジッとみあげて,"あんたさんは,どないふうに看なはる"と答えるまで問われるような本である。著者は20余年患者を<生きてきた><生きている><生きていく>人間として看ていくことが医の道と信じ,西陣の人々の暮しの隅々に目くばりをして医療を住民の中に返してきた。返すということが,医療という機能の裾野を,これほどにも広げ得るという道しるべをこの本は示してくれている。
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