発言席
家庭訪問だけが保健婦活動か
西 正美
1
1石川県小松保健所
pp.157
発行日 1978年3月10日
Published Date 1978/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205954
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数年前,ヨーロッパの公衆衛生活動を視察に出掛け,某大学教授と懇談した際のことである。同行の日本のある保健所長が「あなたの国の保健婦活動についてお尋ねしたい。」と話をきり出したが,教授から「保健婦とはどんな職能の人ですか?」と問いかえされた。くだんの所長は「各家庭を訪問し,保健指導を行う看護婦だが……」と説明すると,教授は「それなら,わが国にも同様な職能の活動があります。」と助産婦の訪問活動について話し始めた。ちなみに,その国では自宅分娩が80〜90%を占めているという。
保健婦を訪問看護婦と説明した保健所長の横顔を眺めながら"失望"と"憤り"を禁じ得なかったのである。保健婦が行う活動形態の一つに家庭訪問指導があり,それが保健指導にとって,きわめて有用な手段であることには,全く異論はない。それが保健婦活動の唯一無二の方法であり,保健婦活動のシンボルであると錯覚するところが問題である。地域保健における保健婦活動は保健所長の指示にもとづく(保健婦助産婦看護婦法策36条)のであるが,その保健所長の認識がこの程度でいいのだろうか。前述の教授の話は助産婦を例に,家庭看護活動の説明に終始したことを考えれば,くだんの保健婦に関する説明は,まさに正鵠をはずした誤解のもと以外の何ものでもなかったことになる。このようなことは,保健所長に限らず,当の保健婦たちの意識の中にも,まま,見られることなのである。
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