ニュース診断
金大中事件と違憲判決
久米 茂
1
1深夜通信
pp.769
発行日 1973年10月10日
Published Date 1973/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205374
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金大中事件でしきりに"主権侵害"ということばがつかわれた。金氏が白昼堂々と(?)日本の首都のホテルから連れ去られ,しかもその"犯人"のなかに韓国政府関係者が加わっているらしいということから,マスコミはまず警察の"無能"ないしは"非力"を批判しはじめた。つづいて,韓国政府が,金氏を再来日させる意図もなく,加えて同事件に同国の要人はかかわっていない……といった態度を示すようになると,国会およびマスコミでは"日本の主権が侵されているのでは"という論議が展開された。私は,この論調の底にこの日本が"小さな韓国ごときになめられていいのか"といった歯ぎしり(!)が感じられてギクリとしたものだ。
それは,この事件がいわれてみるとなるほど日本のめんつや尊厳を侵されているな,と共感したというのではない。そうではなく,"主権侵害"とか主権を守るといったことばは,いわばひびきのいい調子をもっていて,人を酔わせるところがあるが,こんどのような事件程度で使われるのは,かえって事態を悪くするのではないかと憂えられるのである。とくに野党がしきりにこのことばを田中内閣への責め道具に使っているのが気にかかる。
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