Medical Topics
大動脈炎症候群
稲田 潔
1
1岐阜大学医学部外科
pp.770-771
発行日 1973年10月10日
Published Date 1973/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205375
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脈なし病のこと
大動脈炎症候群という病名は比較的新しく,使用され始めてまだ10年も経たないため,聞きなれない人が多いと思われる。これに反して"脈なし病"といえば容易に理解されるであろう。"脈なし病"は明治41年(1908)金沢医大の眼科高安右人教授が特異な眼底所見を呈する若年女子の例を報告したさい,九州大学の大西らが同様の症例で橈骨動脈の触れない例のあることを追加したのが初めである。以後眼科医による報告がときどきある程度であったが,1948年東大外科の清水・佐野教授らが6例について詳細に研究し,本症の3主徴として①椀骨動脈の脈拍消失,②特異な眼症状,③頸動脈洞反射亢進をあげ,"脈なし病"の名称を提案し一般の関心をひいた。この名称は本症の臨床症状をもっとも端的に示しているため,多数の人に受けいれられ現在まで広く使用されるようになった。欧米でもこの病名が普及している。
ところが剖検例での検索や,また近年発展した血管造影検査の応用により,病変部の状態が明らかにされるにつれ,本症の病変は大動脈弓分枝(腕頭動脈,左総頸動脈,左鎖骨下動脈)のみにあると考えていたのが,胸部および腹部大動脈ならびにその分枝など広い範囲に存在することが判明し,東大上田英雄教授により大動脈炎症候群という名称が提唱され,今日これが一般に用いられるようになったものである。
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