声
私の怠慢—訪問かばん
福田 敏子
1
1神奈川県大和保健所
pp.6
発行日 1972年12月10日
Published Date 1972/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205184
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脳卒中後遺症で右半身不随の婦人を家庭訪問したときのことである。前回の家庭訪問のときは,ようやく歩けるようになっていたのに,どうしたはずみかころんで左健側を打撲して,ベッドに寝たきりになっていた。少しでも動かそうものなら,「痛い,痛い」と訴えるので,家族はこわくてさわらずに,そっとしたままであった。そのため,耳の後からうなじにかけて,くずれかかった汗疹がびっしりできているのも気づかないほどであった。さっそく手当てをするため,伸びている髪の毛を切りたいと思い,「はさみがありますか」とたずねた。家族は「はさみですか」と階下へ捜しに行った。
娘夫婦が,約100メートル離れた所に住んでいるので,夫は娘宅で食事や入浴をし,患者の食事を運んで来るのが日課となっていたため,この家には,日用品で不足する物が多かった。この前洗髪をしたときは,必要な物品を事前に全部準備してもらったので,支障はなかったが,急にその場で必要な物がでてくると,家族はあわただしく家のなかを捜しまわるのである。
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