連載 身近かな栄養学・3
キメの細かな食生活
小池 五郎
1
1女子栄養大学
pp.61-64
発行日 1968年10月10日
Published Date 1968/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662204298
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失なわれゆくキメの細かさ
日本人は元来キメの細かさを得意とする民族です。たとえば生け花とか盆栽とかがその典型的な例で,大きな自然を手近なところにたぐりよせ,キメ細かくその精神を具現して,美しさを表現します。茶の湯の作法もそうだし,角力とか柔道とかの勝負を争うゲームにおいてさえも,はじめと終りの挨拶のキメの細かさ,礼儀正しさは,あまり他に例をみない見事さです。風景に山河の起伏が多く,したがって変化に富んでいて,しかもそこに四季の移り変りがきわめてはっきりとあらわれる,というような自然にとりかこまれている環境が,そのなかに住む人に,ち密な神経を育て,キメ細かさを育ててきたのである,ということができるでしょう。「富士の景観」など,たんに四季によって違うばかりでなく,場所によっていちじるしくその趣を異にし,しかも,朝,昼,夕と,時々刻々と変貌していくことが,富士を愛する人々の間でしばしば話題になりますが,これなども,キメの細かな神経を養うための好個の素材になっています。
ところが,そのようにキメ細かさを特徴とする日本人の生活も,とくに都会地において非常に欧風化し,それとともにキメの細かさがしだいに失なわれると同時に,質よりも量の攻勢がいちじるしくなってきました。そしてその風潮は,たんに都会地にとどまっておらず全国的に波及しています。
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