特集 変貌する農村社会と農民の健康
農業「近代化」と農民の健康
井上 和衛
1
1労働科学研究所
pp.27-31
発行日 1968年6月10日
Published Date 1968/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662204202
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1.はじめに
昭和35年以降,周知のごとく,わが国の農業,農村はめざましく変化した。その内容は,農業の「近代化」,農家生活の「都市化」といわれるものである。たしかに,動力耕転機は,すでに250万台を突破し,今日この頃では乗用トラクターに移行しつつある。そして,米中心の農業から果樹,畜産,高級ソ菜園芸を主体とする農業への転換,すなわち「選択的拡大」が近代的農業への道だ,ということから政策的にその方針が追求された。その結果,主穀作部門の農業生産は停滞し,全体として,果樹,畜産,ソ菜などの農業生産が増大した。たとえば,乳牛は,昭和35年〜40年にかけて824千頭から1,124千頭に,同じく,豚は,1,918千頭から3,155千頭に増加した。昭和35年を基準(100)とする40年の生産指数をみると,畜産は186.7,果実は122.5,野菜は115.8となっている。こうした農業「近代化」と併行して,テレビ,電気せんたく機などを中心とする耐久消費材の農村での普及,井戸から簡易水道へ,マキから石油,プロパンガスへと農家の生活様式も急激に変化した。また,農家子弟の高校進学率も年々上昇しつつある。すなわち,農家生活の「都市化」がすすんだ。
しかし,以上の農業,農村の「近代化」の展開過程は,きわめて矛盾にみちたものであったし,今日,それがさらに激化する方向にある。そのもっともするどい矛盾の発現形態は,農民の健康破壊にみられる。
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