連載 保健指導を科学する・9
保健婦活動の事例をもとにした社会学,社会心理学,臨床心理学的な考察
都市環境と保健指導
波多野 梗子
1
1東大医学部保健学科
pp.77-78
発行日 1966年10月10日
Published Date 1966/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203771
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この事例は特に都市というのでなく,どこでもみられるような低所得階層(事例中C階層とあるがこの階層分類は何を示してあるのだろうか。誰の階層分類であるのか何の分類なのかを明確にしないと正しく理解されない)における貧困――悪い環境――不健康――貧困の悪循環を示した1事例と考えてよいかもしれない。担当の保健婦がのべているように,もし経済的に豊かで,住宅環境がよかったら未熟児にならなかったかもしれないし,(未熟児がかならずしも低階層に生れるとはかぎらないが)そうすれば「脾臼蓋形成不全」にならずにすんだかもしれない。そしてこの子どものために医療費をかけずに,そのお金で階段を作ることがもっと早く出来たかもしれないのである。もちろん,そこには多くの仮定を含んでいるわけではあるが……。
しかし,住宅事情については,この状況はたしかに都会的である。農村においては貧困といっても,土地に不自由はないし,住宅環境の悪さは都市化がすすむにつれてより大きな問題としてあがってくるものだからである。この例に示唆されるように,都市の住宅問題は保健・疾病予防の面からもっととりあげられなくてはならない。
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