連載 保健指導を科学する・4
「農民のパーソナリティと農村の老人の保健指導」
波多野 梗子
1
1東大・保健学科
pp.77-79
発行日 1966年5月10日
Published Date 1966/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203656
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ゆれ動いている農村の老人の地位
この事例に描かれている問題の焦点はいったいなんなのであろうか.ある農村における一人の老婦人の結核の問題は,決して特異な例ではなく,むしろ農村一般の貧困の問題であり,貧困な農村家族の中の老人が医療をうけられずに,そのままほおっておかれている状態を象徴するものなのであろう.事例には,老婦人やその家族の状態や行動がはっきり描かれていないこともあり,ここでは問題を一般的なものとして話をすすめていくことにしよう.
この結核の老婦人は,前半の小学生のツベルクリンの知識の例にあるような,結核に関する,あるいは保健に関する知識がなかったために医療をうけなかったのであろうか.また,家族全体は,生活を社会的に援助してもらうための方法についての知識がなかったためにだけ,貧困に甘んじていたのだろうか.もちろん,そのような知識の不足によるためもあるかもしれない.しかし,もし知識がなかっただけのためだとすると,保健婦や医師の努力によってじゅうぶんな医療がうけられるようになったのに対して,すなおに喜んでよいはずである.ところが,この文章の中にみられるように,「本人はあまりにも無表情であることに疑問がある」と書かれているとおりである.
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