特集 身の回わりの衛生
第II部 健康なくらし
家庭医薬品の管理
大矢 仁美
pp.61-64
発行日 1966年2月10日
Published Date 1966/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203568
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薬はこわいもの
神のいかり,悪魔ののろいがすべて病気の原因と信じられていた時代,薬は有力なおまじないの一種でした.しかし19世紀いらい近代医学・薬学の進歩は,病人の苦痛をとりのぞく手段としての薬だけではなく,病源菌そのものの働きをおさえさらにはころすといったはっきりした目的をもつものに成長しました.アスピリンからサルバルサン・スルファミン・ペニシリン以降の抗生物質にいたる発展をとげたというわけです.またこの考え方は草根木皮はおろか鉱物・動物など自然界に存在するいろいろな物質から有効成分を抽出して薬にする方法や,逆に有効成分を合成する方法を発達させました.いっぽう製薬技術の進歩もみのがすことはできません.経口薬一つを例にとっても散剤はより便利な錠剤に,その錠剤も空気・湿気・光線・消化液に対していっそう堅固に糖衣,ゼラチンコートを着せるというぐあいに,工夫に工夫がかさねられました.このような薬の進歩と量産が私たちの生命と健康をまもるうえで大きな力になったことはあらためて申すまでもありません.しかし他面,マスコミを駆使する製薬メーカーの誇大宣伝と,新薬ときけばなんでもとびつく受け手側の軽卒な態度はいつのまにか素人の薬品乱用といったこのましくない傾向をつくりつつあることも事実です.こうした傾向は,病気をいっそうおもくしたり,あるいはまったく新らしい病気をつくることも想定されます.
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